あんずという猫がいました。
真っ白に青い目の、耳の大きな、細い体に長いしっぽ、長い手足を持った、しなやかな体の猫でした。
彼女は、17年という年月を生き、昨年 2005年 12月16日、家族に抱かれて眠るように逝きました。

わたしの実家は薬局をやっていて、あんずは店の看板猫でした。
「まるで おしろい はたいたみたい!」
「まあ、べっぴんさんな猫やこと!」
店で悠々と過ごす彼女を、お客さんたちはたくさん褒めてくれました。
そんな声にあんずはゆったりと目を細め、
猫好きのお客さんたちが、
そおっと体を撫でたり、顎をくすぐるのを
嫌がりもせず、
穏やかに
目を閉じていました。

穏やかなやさしい猫でした。
人間が大好きで、寂しがりやでした。
家に来客があると、いつのまにかお座敷の隅にちんまり座っていました。
母の夜なべにつきあって、よく話し相手になっていました。
赤ん坊のそばで子守りをし、赤ん坊が子どもになり、
彼女のそばで走り回って遊んでも、ゆったりとくつろいでいました。
贅沢な食いしん坊で、白身魚〜焼き甘鯛が大好物。
年老いてからは、若猫時代には飲まなかった牛乳を、ほんの少し飲むようになった。

わたしが帰省すると、わたしの布団の中に 「入れて」 とそっと鼻をくっつける。
布団の端をめくると、ぎこちなくゆっくりと布団の中に入ってきて、
わたしの腕枕で、わたしの体にぴったりくっついて寝ました。

あんず、
あなたの体に腫瘍が見つかって、
どんどん どんどん弱っていって、
わたしは、手遅れになる前に と、帰省して、痩せ細ってしまったあなたに会って、
そしてその夜、
いったい、あんなに弱っていたあなたの体のどこに、あんな力が残っていたんだろう、
わたしが泊まると 必ずそうしていたように、
あなたは 寝ているわたしの枕元にちょこんと座って
「入れて」 と、
冷たい 濡れた鼻を わたしの頬にくっつけた。

布団の中に入ってきたあんずの体のなんて細かったこと!
布団につぶされてしまうんじゃないかと思った。
背骨のごつごつ、肋骨のだんだん、
1本1本数えられるくらいだった。
それでもね、あんず、
あなたはゴロゴロ言ってくれたんだよね。
ゆっくり ぎくしゃく体を動かして、
わたしにぴったりくっついてくれた。
そして半泣きのわたしに頬ずりしてくれたんだよね。

あのとき 一緒に寝られて 本当に幸せだった!

その日から一週間後、
あんずは 大好きな義姉の腕に抱かれて、
親友の母に看取られて、逝きました。


あんずの写真のスライドショーです。
同じようなのばかり、そして下手くそな写真ですが、
あんずが亡くなる1年前の夏と、
亡くなるほんの1ヶ月前の画像です。
美しく やさしい 「あんず」 という名の猫を知っていただければ幸いです